新しいジムに入会したとき、最初にバーベルを握らせてもらえないと少し拍子抜けする人もいるかもしれない。しかしDex CoreBlendでは初回の30分間をトレーニングではなく「動作スクリーニング」に使う。これは気まぐれな方針ではなく、Functional Movement Screen(FMS)という標準化された評価プロトコルに基づいた判断だ。なぜ動き方を測定することがそれほど重要なのか。端的に言えば、動作パターンの欠陥を抱えたまま強度を高めると、筋力ではなくリスクを積み上げることになるからだ。この記事では、FMSの7つの評価項目とスコアリングの仕組みを一つずつ解説し、そのスコアがどのようにプログラム設計の判断を左右するのかを具体的に追う。

FMSとは何か:評価ツールとしての設計思想

FMSは1997年にグレイ・クック(Gray Cook)とリー・バートン(Lee Burton)が開発した動作評価システムだ。整形外科的な「痛みはあるか」という問いではなく、「基本的な動作パターンは機能しているか」という問いに答えることを目的としている。評価は7つの動作テストで構成され、それぞれ0〜3点のスコアが付く。合計21点満点のうち、14点以下のスコアは怪我リスクの上昇と相関するという報告がある(Cook et al., 2006)。重要なのは、このシステムが運動能力を測るのではなく、動作の「非対称性」や「制限」を可視化することに特化している点だ。たとえばプロのアスリートでも、特定のパターンにスコア1(痛みなしで動作を遂行できない)が出ることは珍しくない。

7つの評価項目:それぞれが何を見ているのか

FMSの7テストを順番に見ていこう。①ディープスクワット:股関節・膝・足首の3関節を同時に評価し、全身の連動性を確認する。②ハードルステップ:一側の股関節屈曲と体幹安定性を歩行パターンと関連付けて見る。③インラインランジ:矢状面での安定性と股関節の柔軟性。④肩のモビリティ:肩甲骨の可動域と胸椎の伸展を測定。⑤アクティブストレートレッグレイズ:股関節屈筋のモビリティと骨盤安定性。⑥体幹プッシュアップ安定性:体幹の剛性と肩甲骨コントロール。⑦ロータリースタビリティ:四肢の対角線的な協調運動と体幹の回旋安定性。左右非対称が出たテスト、つまりスコアに差がある部位は、プログラムで優先的にアドレスされる対象となる。

スコアリングの読み方:数字が語ること

各テストのスコアは3段階+痛みのフラグで構成される。スコア3はサポートなしで理想的なパターンを遂行できること、スコア2は代償動作を使いながら完了できること、スコア1は動作を完了できないことを指す。スコア0は動作中に痛みが発生した場合で、これは即座に医療専門家への照会を意味する。Dex CoreBlendのコーチは全セッションの評価データをスプレッドシートで管理しており、スクリーニング実施日・テスト別スコア・左右差・再評価予定日を記録している。7テストのうちひとつでもスコア1があれば、そのパターンに負荷をかけるエクササイズはプログラムから除外または修正される。これは「できないことを強化する」のではなく「できない動作を修正してから強化する」という順序を守るためだ。

スコアがプログラム設計に与える具体的な影響

例を一つ挙げよう。ディープスクワットでスコア1(完遂不可)、ハードルステップで左右差(右2・左1)が出たクライアントがいたとする。この場合、バックスクワットやデッドリフトを初期プログラムに組み込むことはしない。代わりに、足首モビリティドリル、ハーフニーリングヒップフレクサーストレッチ、ボックスを使ったゴブレットスクワットへの段階的移行を優先する。左右差がある場合は、弱側から先に単関節エクササイズを行い、強側への補償を防ぐ。このアプローチにより、初月は強度が低く見えるが、スクリーニングなしで始めた場合と比べてフォーム修正にかかるセッション数は平均的に少なくなる傾向がある。「なぜ今すぐ重いものを持てないのか」への答えは、スコアシートの中にある。

再評価のタイミング:スコアは変化するか

FMSは一度やれば終わりではない。Dex CoreBlendでは基本的に6〜8週ごとの再評価を設定している。動作パターンは適切な介入によって改善するが、そのペースは個人差が大きい。胸椎モビリティの制限はソフトティッシュワークと組み合わせることで数週間で変化が見えることがある一方、深層外旋筋の協調性改善には12週以上かかるケースも珍しくない。重要なのは、再評価のデータが「プログラムの難易度を上げるタイミング」を感覚ではなくスコアで判断する根拠になることだ。スコアが14点を下回ったまま強度を上げることはしない。このルールはコーチの主観が介在しにくい、数値ベースの判断基準として機能している。

スクリーニングを「時間の無駄」と感じさせない説明責任

初回の30分を評価に使うことへの抵抗感は理解できる。多くの人はすぐに動きたいし、汗をかきたい。だからこそ、Dex CoreBlendのコーチはスクリーニング中に評価の意図をリアルタイムで説明しながら進める。「今この動きで膝が内側に入ったのは、股関節外旋筋の活性化が不十分な可能性がある。だから最初の2週間はこのドリルを優先する」という形で、スコアと処方の因果関係をその場で伝える。これはコーチとクライアントの間に「なぜこのエクササイズをやるのか」という共通言語を作るプロセスでもある。根拠が見えるトレーニングは、継続率にも関係する。動作スクリーニングは30分のコストではなく、プログラム全体の信頼性への投資だ。

FMSの限界と、私たちが補完的に使うもの

FMSに対しては批判的な研究も存在する。14点カットオフの予測妥当性については再現性の問題を指摘する論文もあり(Dorrel et al., 2015など)、特定のスポーツ集団や高齢者への適用には注意が必要だ。Dex CoreBlendでは、FMSスコア単独で全てを決めるのではなく、ヒアリング(既往歴・現在の活動量・目標)と組み合わせて使っている。たとえば、スコアが高くても主訴に「肩の違和感」があれば、ショルダーモビリティテストの詳細版を追加する。FMSはあくまでスタート地点を決めるための地図であり、コーチの観察眼と問診がその地図を補完する。ツールを盲信せず、ツールを使って考えることがスクリーニングの本質だ。

動作スクリーニングは、トレーニングの「前」に存在するプロセスではなく、トレーニング設計そのものの一部だ。FMSの7つのスコアは、コーチが何を選び、何を後回しにし、いつ難易度を上げるかの根拠になる。初回の30分は、その後の数ヶ月を無駄にしないための時間だと私たちは考えている。